tonari 創業者からのご挨拶 2019年度

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もしこの壁をとおしてまったく別の場所が見えるとしたらどうでしょうか?扉から覗きこむように、たとえお互いが全く異なる場所にいても、まるで同じ部屋にいるかのように感じられるのではないでしょうか。私が夏休みをビーチで過ごそうと故郷のモンタナで家族と一緒に過ごそうと、問題にならないかもしれません。川口がヨーロッパを旅していても、離れた地方に住んでいても、大したことではなくなるかもしれません。もしかしたら、別々の場所で、別々の夢を追いかけながらも、これからもずっと共に働き、新たなプロジェクトを一緒に追求し続けることができるかもしれません…

昔なら、このようなアイデアはすぐに引っ込み、ぼんやりとした意識の中へ消えて行ったかもしれません。しかし、2016年に様々な専門分野の人々が集まり設立されたクリエイティブコミュニティであるStraylightにおいては、こういった夢が、実現に向かうことがよくあります。建築、プロジェクションマッピング、コンピュータービジョン、スペーシャルオーディオなどが複雑に絡み合い、テクノロジーとデザインとアートが交差するような場所では、それはより現実的な物語の、具体的なかけらとして姿を見せ始めます。

2017年9月に私たちはコミュニティーの助けを借りて、「Continuum(コンティニュアム)」という名前のプロジェクトのもとでコンセプト動画を作成しました。また、何百人もの友人、家族、オンライン上のファンたちを引き込み、クラウドファンディングのキャンペーンも開始しました。その年の11月、私たちは日本財団ソーシャルイノベーションフォーラムで技術デモを展開し、そして12月にはソーシャルイノベーションアワードを受賞したことで、日本財団から年間5,000万円の助成金を獲得しました。

受賞によって新たな自信と手厚い支援を得た私たちは、他にあったコミットメントを冬の間に少しづつ整理しました。そして2018年4月に川口と私は、tonariを作ることに専念し始めました。チームを固めるために、製品およびデザインの担当として、Alvaro(Nuevo.Studio)を、そして経営とオペレーションに、スタートアップのCOOとして経験豊富な後尾を迎え入れました。アリスンは10年以上にわたる金融のキャリアから離れ、コミュニケーションやパートナーシップ、ユーザー調査を率いる新たな役割を担いました。そしてジェイクがチームの2番目のエンジニアとして参画し、ネットワーク構築とセキュリティーにおける経験を活かして、動画の圧縮、ネットワークの速度やレーテンシーに関する難しい問題に取り組み始めました。

一方で、私たちは新たなビジョンと名前(tonari)を決め、多岐にわたるユーザー調査を実施してリモートワークの動向に関する情報収集を行いました。支援者やパートナー、将来の顧客と関わるために様々なイベントへ参加したり、自らそういった場を設けました。社内では、製品やユーザー体験の目標を明確に定め、広範囲に及ぶ研究やプロトタイピングを通して技術プラットフォームの基礎を構築しました。

昨年はそういった基礎の構築に注力してきたことにより、2019年は力強い足場と、刺激的なロードマップと共にスタートを切ることができました。これも素晴らしいチームと、支えてくださったコミュニティーのおかげです。今年私たちは研究と製品開発を継続し、厳選したパートナーとロケーションで、初めての試験的なtonariポータルの導入を開始します。また、チームを拡大しながらも、仕事のあり方についての私達の信念を忠実に守り、tonariと関わる人々にポジティブな刺激を与えられる企業文化とベストプラクティスを構築していきます。

ビジョン

tonariが作るのは2つの部屋がまるでひとつにつながっているかのように感じられる、本当のテレプレゼンス体験です。大きな扉を通して隣室の中を覗くような感覚で、自然で臨場感に溢れたコミュニケーションが可能な空間を作り上げます。

空間設計、プロジェクションマッピング、コンピュータービジョン、スペーシャルオーディオ等の技術を融合したtonariの製品は、ON/OFFの概念のない常時接続型で、複雑なユーザーマニュアルや設定を必要とせず、空間の中にシームレスに溶け込んだ美しいデザインを基調にします。会議室でのミーティングの煩わしさや既存のコミュニケーションツールが持つ使いにくさを排除することで、遠隔コミュニケーションは生まれ変わります。そこでは、人々が負担を感じることなく思いを豊かに表現し、信頼関係を構築し、複雑なコラボレーションも可能になります。

オフィス、学校、病院、公共スペース、家庭など、あらゆる場所や組織を念頭に、強固で柔軟かつ効率的なコミュニケーションプラットフォームを開発することで、私たちは移動や通勤のコスト、それに関わる個人的なストレス、および環境への影響の大幅な軽減を目指しています。そして最終的には、リモートワークや遠隔教育がより自然で当たり前になり、どこからでも必要なリソースにアクセスできる世界をつくりたいと考えています。

研究および啓蒙活動

ソーシャルベンチャーとして設立されたtonariは、ビジョン実現に並行して取り組む2つの事業運営体から成ります。それぞれが独立しながらも、補完し合うミッションを通して共通の未来を目指します。こういった形態は一般的ではありませんが、ミネルヴァ・プロジェクトのような他の優れたソーシャルベンチャーにも見られます。ミネルヴァ・プロジェクトは非営利の大学と営利の技術プラットフォームの両方を運営し、オンライン学習用の新たなツールや手法を協力して構築し、実践しています。

tonariの非営利機関である一般社団法人は、研究、啓蒙活動、開かれた連携を通して、社会と業界をともに前進させていきます。営利ベンチャーである株式会社はスタートアップとして事業化リスクを背負い、新たなソリューションの開発と拡大に取り組んでいます。2つの組織は協力し合い、tonariのソリューションを全ての人、全ての場所に届けるため活動します。そして、リモートワークや遠隔教育の質を上げ、より柔軟で場所に縛られない社会インフラを目指すとともに、それが街自体のあり方を変え、無秩序な都市開発や大都市一極集中に歯止めをかけることができると信じています。

今年は、ユーザー調査を通して、すでにリモートワークを実践している組織のあり方を学び、それらの組織がどのようにして離れた場所でアイデアを共有し共同作業を行っているのか、そして具体的にどのような改善が期待できるのかについて、より掘り下げた調査を行う予定です。私たちはインタビューやエッセイを通し、教育、コンサルティング、医療などの幅広いユーザーセグメントや業界について研究し、リモートワークの最前線を走っているチームについても学ぶことで、理解を深めていきたいと思っています。また、試験プログラムから得たケーススタディーにも焦点を当て、現実社会でのtonariの有効性をオープンに評価し、公表していきます。

技術的には、特にコンピュータービジョンやディープラーニングなどの分野で、学界や研究団体との関わりを増やしたいと考えています。また、関連技術のオープンソース化にも貢献できることを楽しみにしています。

私たちは、日々の学びを積極的に共有していくことで、tonariの認知度が高まり、課題感が共有され、新たなソリューションを生むきっかけになると願っています。同時に、私達の描く未来に向けて、技術・社会・市場の進化を後押ししていきたいと思っています。私たちの調査活動やエッセイ、イベント情報に興味のある方は、ニュースレターをご購読いただくと共に、メディアでの発表にご注目ください。

製品開発

私たちの製品の詳細および技術開発情報の多くは、今まであまり公にしてきませんでした。動画圧縮やネットワーク構築、ディープラーニングをベースとしたシーン再構築、スペーシャルオーディオ、空間設計等の融合、製品化までの道のりには様々な課題が伴います。そのため短期的に実現可能でありながら、中長期的にtonariがプラットフォームとして拡大していけるよう、慎重にロードマップを組んできました。

2019年前半は、tonariのデモが代々木のオフィスと葉山のコミュニティスペースをつなぎます。コンセプト動画にあったVFXが現実になったところを、友人やサポーター、試験プログラムの候補者たちに実際に体験していただきます。

2019年後半には、試験プログラムを通してtonariは外の世界へ進出します。限られた数のチームや組織の協力のもと、tonariポータルを実環境に設置し、様々なユーザーに日常的に使ってもらいます。初期段階の試験パートナーとは密接にコミュニケーションを取り、使用感のフィードバックを集め、さまざまな試験的な機能を試し、共にtonariの製品を改善していたきたいと思っています。私たちとビジョンを共有するさまざまなチームや組織とコラボレーションできることを楽しみにしています。

試験フェーズを通して得た運用経験やユーザーフィードバックを受けて、2020年にはtonariをより多くのユーザーに届けたいと思っています。そして、製造ラインを構築し、より広域に展開するため、tonariに適したパートナーや流通経路を探ります。

今年の春には、試験プログラム参加者の選定プロセスや申請方法について、より詳しい情報を共有する予定です。ご興味のある方は私たちのメーリングリストにご登録ください。

カルチャーとチーム

tonariはそのチームの多様性やStraylightコミュニティーとの結びつき、ソーシャルベンチャーとしてのあり方などの点から、東京や日本国内を見ても非常にユニークなチームと言えます。

2019年はtonariの技術プラットフォームの開発マイルストーンを明確にし、エンジニアチームの拡大に注力します。幅広い技術課題に積極的にチャレンジできる優秀なソフトウェアエンジニアを探しています。tonariと思いを共有する未来のチームメイトと出会うために、日本国内外で様々な人々と出会えるよう、ハッカソン、パズルハント、現地コミュニティーのワークショップの後援など、独創的な取り組みを試みる予定です。

一方で、すでに私たちのことを知っており、もっと詳しい情報を知りたいと考えている方は、私たちの採用ページをご覧ください。あるいは hey@tonari.no 宛にフリーフォームで思いの丈をぶつけてください。

さらに先を見越して

完璧なテレプレゼンスは、テレポーテーションのようなものです。離れた場所にいたとしても即座に誰かと合流し、同じ体験を共有できることを想像してみてください。それでも、毎日職場まで通勤しますか?もし一日の移動時間を減らすことができれば、その時間で何を追求しますか?健康や趣味、あるいは家族との時間をもっと増やしますか?世界のどこに住むことを選びますか?

もしどこにいても同じ機会にアクセスできれば、街や社会のあり方はどのように変わるでしょうか?飛行機や電車、車に乗る機会を減らすことで、どれだけ多くのエネルギーや資源を節約できるでしょうか?物理的に移動する必要性が減れば、この地球はもっと緑あふれる星になるでしょう。

次世代の一流大学や研究施設、学校は、バーチャル空間を通した学習やコレボレーションを促進していくでしょう。その結果、学生や研究者も学校構内にとどまる必要がなくなります。郊外に住む子どもたちも、広い空間で自然に囲まれて育ちながら、都会と同質の教育を受けることができるようになります。

次世代のクリエイティブな企業は新たな技術を利用して、これまでよりも従業員・チームの分散化を進め、柔軟性を増していくでしょう。それらの企業は世界中の顧客や人材により容易に接触することができ、人事、施設、出張に関する業務コストを軽減することができます。従業員の満足度も高まって生産性が上がり、離職率も下がるでしょう。

多くの人々にとって、居場所はもはや経済的・教育的・社会的機会へのアクセスを決定づける支配的要因ではなくなります。グローバリゼーションとインターネットの潮流に乗った新しいコミュニケーション方法、配送や物流のさらなる改善、および拡大するシェアリングエコノミーは、すべて物理的な障壁や限界が意味をなさなくなる未来へとつながっています。

私たちがこの長期的ビジョンを前進させることで生まれる、社会的および経済的チャンスは計り知れません。積極的に研究結果を公開し、セクターを超えて協業し、新たな市場を作り上げる画期的な製品やサービスをつくることで、私たちはより平等で人間味のあふれた社会に向けて、長期的な視点で取り組んでいきたいと考えています。

最後に

今年は、tonariの物語にとって重要な節目になります。私達のビジョンを形にし、公表します。いままでは夢見ていただけのものが、厳しい現実にさらされることで様々な軋轢も生じるでしょう。それは見知らぬ観客でいっぱいの会場で、舞台へ上がる時の期待感のような、興奮と不安の入り混じった感覚と似ています。

疑問や疑いも湧いてきます。この方法で空間をつなぐことが、実際にはどのように感じられるのだろうか?市場で認められるだろうか?テックスタートアップとして成功するのに十分なスピードで拡大し続けることができるだろうか?人々が本当に価値があると考えるものを確実に作り出すために、何ができるだろうか?

ベンチャーのゼロからの立ち上げは、物理的、精神的な耐久力テストのように感じられます。無数に存在する日々の作業だけでなく、実現まで粘り強くビジョンを語り続けなければなりません。遠隔コミュニーケーションの問題を複雑な日常のシーンで解決するには、様々な不確定要素を見事に調和させる必要があります。

複雑な製品開発や多様性豊かな組織を導いていく様子は、音楽の演奏に似ています。私の役割は、オーケストラの指揮者というよりはジャズバンドのドラマーに似ています。静寂から始まり、演奏に従ってダイナミックに構成を組み立てていくためには、他の優秀な演奏者たちの解釈と即興に対しオープンな姿勢が求められます。クリエイティブで技術的に優れているだけでなく、優れた聴覚と学習意欲のある演奏者をより多く集めることで、演奏は新しいハーモニーとリズムを生み出しながら自然と成長し、各パートの単純な集合以上のとても素晴らしいものになります。創業当初からの従業員、パートナー、そしてユーザーが最も重要な役割を演じ、後から加わる人たちのために独自の雰囲気・カラーを形づくってきました。その意味で、私はチームやtonariのコミュニティーを通して、たくさんの優秀で刺激的な人々に囲まれていることを非常に誇りに思っています。そして、ビジョンを前進させるために私達がとってきたアプローチは正しかったと実感しています。

2019年を迎えるにあたり、新たな技術開発の連続、そしてtonariの製品をついに世に出すことにワクワクしています。より多くの方にデモ機や試験機を体験していただき、私達の夢の一端に触れていただきたいと思います。そして、私達の発信するエッセイ、ケーススタディ、物語に注目し続けていただければ幸いです。移動の煩わしさから開放され、人々がより密につながった、人間味に溢れ持続可能な未来を作り出すために、この手紙を読んでくださっているあなた自身も、一部のパートを演奏する気になっていただければこれより嬉しいことはありません。

tonari創業者 タージ キャンベル・川口 良

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