離れた場所とつながることで実現する、未来の職場と教室
ソーシャルイノベーションフォーラム2019 パネルディスカッションの覚書

概要

  • tonariはソーシャルイノベーションフォーラム2019でパネルディスカッションを開催。tonariのようなツールがより身近になった時、仕事と教育がどのように発展することができるかを討論。
  • テクノロジー、遠隔教育と建築の専門家を招き、それぞれの分野の新しい開発、未来への展望などを共有。
  • ビデオコミュニケーションは、すでにリモート勤務やeラーニングの機会づくりに役立っている。ZoomやGoogle Hangoutsが一般化している。
  • 一方で、従来のツールでは全てのニーズを解決できていない。雑談など非公式な場での偶発的な会話をしたり関係づくりを深めるには、一緒に日常的な時間を過ごす必要がある。
  • tonariはより「人間中心」のデザイン。従来のツールでは対応しきれない状況にある人々のために、仕事や教育の機会へのアクセスを提供できるかもしれない。
  • 2~5年後、tonariやtonariのようなテクノロジーが成熟すれば、人々が生活・仕事・学習と言ったライフスタイル設計にさらに多くの選択肢が生まれる。

現代の都市での生活、家族、仕事、学校、コミュニティにおいて、それぞれのバランスを保つことがますます困難になっています。今日の日本では、55%以上の人が2時間以上かけて通勤をし、1/3以上の収入が不動産の賃貸に使われています(アメリカではさらにひどく1/2に達します)。長時間かけた通勤、狭く高額な住まい。私たちは場所から場所へ移動しながら「時間」という最も大切なものを、事あるごとに諦めています。

もし一瞬で別の場所にテレポートすることができたら、この状況を打破することができるでしょうか。きっと遠くの職場に即座にアクセスすることができ、世界のどこからでも学習の機会が得られるでしょう。どんなツールであればこのような経験を与えてくれるでしょうか。そしてそれはいつ実現するでしょうか。

Social Innovation Forum 2019でテクノロジー、教育、空間デザインのエキスパートたちにこのテーマにそった質問を投げかけました。

  • 浅田 慎二 (あさだ しんじ)セールスフォース・ベンチャーズ 日本代表

伊藤忠商事株式会社および伊藤忠テクノソリューションズ株式会社を経て、2012年より伊藤忠テクノロジーベンチャーズ株式会社にて、ユーザベース(IPO)、メルカリ(IPO)、Box(IPO)、WHILL、TokyoOtakuMode等国内外ITベンチャーへの投資および投資先企業へのハンズオン支援に従事。2015年3月よりセールスフォース・ベンチャーズ 日本代表に就任しSansan(IPO)、TeamSpirit(IPO)、freee (IPO)、ビズリーチ、Yappli、スタディスト(TeachmeBiz)、オクト(Andpad)、トレタ、カケハシ、マネーツリー等B2Bクラウドベンチャーへ投資。慶應義塾大学経済学部卒、マサチューセッツ工科大学経営大学院MBA修了。

  • 藤村 聡 (ふじむら さとし)一般社団法人Living Anywhere 事務局長

ソニーで20年間ソフトウェア開発や新規事業開発に携わったのち、2015年から Mistletoeに参画。Slushなどスタートアップコミュニティの活性化に貢献するとともに、これからの暮らしかた、働きかたなどにも関心を持ち、場所にとらわれない暮らしかたや地域との関係づくりを提案していく一般社団法人Living Anywhereなど、複数の新しいプロジェクトを支援している。特に教育関連プロジェクトに多く関わっており、一般社団法人 東京学芸大Explayground推進機構では未来の新しい学びのしくみを東京学芸大学と模索している。

  • 稲田 晋司 (いねだ しんじ)株式会社フロンティアコンサルティング 執行役員・デザイン部門・一級建築士

一級建築士事務所にて戸建て住宅や共同住宅を中心とした建築設計業務に4年半携わり、その後オフィス業界へ。デザイナーとしてキャリアを重ねつつ2009年に一級建築士を取得し、2007年の株式会社フロンティアコンサルティング設立時より参画。クリエイティブディレクターとして企業のオフィスプロジェクトに関わる傍ら、世界のワークカルチャーから働き方とオフィス環境を考えるメディア「Worker’s Resort」の運営を行う。2019年3月に働き方実証実験プラットフォーム「Work Mock」を立ち上げ、企業の生産性向上や社会の多様な働き方の実現に向けた取り組みを行っている。

  • 川口 良 (かわぐち りょう)一般社団法人tonari リードエンジニア・代表理事

Google Japanに6年間在籍。数億人規模のユーザーを支えるシステムの設計や、複数の国をまたいだチームとの協業の仕方を学び、感情分析からお店探しまで、多岐にわたるGoogle Mapsの機能開発をリードした。現在は、tonariに加え、ストレイライト合同会社の共同代表も兼ねる。

今回のディスカッションでは、tonariのような新しいコミュニケーションテクノロジーが2〜5年後の職場や教室をさらにお互いに繋げてゆくという前提で議論をしました。(tonariは常時接続で離れた相手とまるで同じ部屋にいるかのような自然なコミュニケーションを実現します。親しい人や仕事仲間といつでも簡単に会える、開かれた扉です。)

このようなテクノロジーやインフラストラクチャーが様々な経済的地位をもつ人々や地域に広がれば、生活する場所の選択肢が増えると考えています。続いて、今回のパネルディスカッションから得たアイディアや学びを紹介します。

ビデオコミュニケーションがリモート勤務や学習の新しい可能性を切り開く

浅田氏は、ビデオコミュニケーションは日本でも普及しはじめていると語ります。「スタートアップ同士では使い方に違和感がなく役立てている印象。一般的な企業だと使い方に慣れていないケースもあり、現状では8割がface to faceになっている。」浅田氏はビデオコミュニケーションの進歩に伸び代を感じており、Google HangoutsとZoomが一般的に普及してきているように感じています。

一方、少子化による地方で児童・生徒数の減少が原因となり、一年で500を超える公立学校が廃校になっており、都市や町の半分ががつぎの20年の間に、人口減少により消滅の危機にあります。

稲田氏は自身の経験から語ります。「島では予備校・塾など支援がない。また仕事を知る機会がなく、情報量がハンデになる。自分自身、高校卒業後に進学のために伊豆大島を出てみてそこで初めて知った仕事や職業があった。」

このように、離れた場所にいても教材や講師にもっと簡単にアクセスできるような方法が明らかに必要とされています。藤村氏によると、ドワンゴN高ミネルバ大学がその分野を現在牽引しているそうです。どちらにも物理的な本校・キャンパスは存在せず、遠隔教育に特化したカリキュラムの作成や、コラボレーションツールとコミュニケーションルールをうまく組み合わせて利用し、教育の未来像を写すようなを学校環境、コミュニティにいる感覚を再現することに成功しています。

ビデオコミュニケーションがどれだけ普及したとしても、人々は実際に会って日常的な時間を過ごす必要がある

ビデオコミュニケーションが遠地での勤務や学習を可能にするならば、もう誰にも会う必要はないのではないか。この疑問は以前の記事でも考察しました。

藤村氏曰く NOオフィスを実践するMistletoeのようなチームにとって「大事なのは偶発的に起こるインフォーマルな会話。離れていると必要最小限の会話しかないが、そうではなく雑談をすることが意外と大事」だそう。

この考えは次のとおり、稲田氏の見解にも一致します。「クライアントの中にはオフィスづくりを通して自分たちの企業文化を考えたりチームビルディングを行う機会としてオフィスづくり活用をしている会社がある。運用面も含めてオフィスの活用を意識している会社は増えてきている。」

より自然発生的にふとした場面で自分の意見を自然に表現できる風通しの良いコミュニケーションを実現するには、面と向かって対話することが重要です。リモート勤務をしていると、簡単な質問でさえも10分以上待たなくてはならないケースがあり、息苦しさを感じます。コラボレーションを行う上で相手との意思疎通は非常に大切ですが、チャット画面やEメールでは、繊細なニュアンスを説明するのは難しく、空気や気配りでさりげなく重要な変更を伝えることも困難です。

日々の重要なコミュニケーションは計画して生まれるものではありません。コーヒーブレイク中や昼食の時間など、チーム内でのプライベートな出来事は普段の何気ない会話を通して共有されます。そうすることで部署間での情報の壁が取り除かれ、組織の「今」について学ぶことができます。マニュアル化されてない段取りのコツや業務の経緯は、自然発生的な会話を通して仲間の間で共有されていきます。

よりよいチーム作りはこのようにして生まれます。だからこそ、さりげないコミュニケーションも、全てが大切です。ソーシャル物理学の調査によると、コミュニケーションの方法を少し変えるだけで、チームの効率化と知識の蓄積に、大きな影響を与えるといいます。

テクノロジーはより人間中心になる必要がある

テクノロジーは相手からの返答を必要としない非同期通信や、遠地からの勤務・学習を可能にしますが、成熟するにはまだまだ時間が必要です。

tonariのリードエンジニア、川口氏は語ります。「tonariはデザイン哲学に人間中心のアプローチを取り入れている。例えば常時接続である理由は自然と生まれる表情やジェスチャーなどの非言語コミュニケーションや非公式で偶発的に発生するコミュニケーションが重要だと考えているからだ。映像技術では4Kのプロジェクターが指数関数的なコスト低下が行っている。最先端の技術をうまく使って人間の生き方に影響を与えるプロダクトを作れるとても良いタイミングに今は立っていると思う。」

2年後には教室やオフィスをシームレスに繋げる壁全面の投影を予想しています。またtonariはマス向けの商用版のリリースによって、誰でも簡単に二つの場所を繋げることができるはずです。

一方で、様々なコミュニケーションテクノロジーの中でも、面白い試みとしてVRが特に注目されています。その中で浅田氏は、VRは持っていても使う人は少ないが、ARはプロダクト次第で普及する可能性があると言います。「(VRは)全然普及していなく、まだしばらくかかる。」とも指摘しています。また藤村氏は「VR上でアバターの匿名性の価値が高い。コミュニケーションが取りづらい状況(不登校など)の人にとって顔を合わせないことで価値が生まれたり、目的によっては使える余地がある。人間中心デザインのtonariの技術も価値がある。教育においては同学年での横のコミュニケーションが重要。技術によって交友関係が広がることは価値が高いのではないか。」

結論

2年後、5年後にtonariのような技術が成熟し開発が進むことで、仕事や教育のあり方がより分散化れるでしょう。人々の生活する場所の選択肢が増え、結果的に地方が活性化する可能性も生まれます。

稲田氏は都市人口が減少して都市が寂しくなるということは危惧しておらず、都市や地方でアイディアや人々の流れが生まれると考えています。「ECによって店舗の価値が変わるなど、都市のあり方に今後見応えを感じる。メディアとしての都市のあり方・価値が変化しそうだ。」

仕事、才能、学校を見つけるための都市生活という考えがなくなれば、都市生活でのメリットと地方生活のメリットを改めて評価することができ、双方から生まれる価値をよりうまく利用することが可能になります。

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