前回の記事ではリモートワーク・フレックスワークの導入を妨げるいくつかの課題をご紹介させていただきました。それに対しての反応として、雇用者と従業員が口を揃えて「信頼の問題」を挙げたことが非常に興味深かったです。例えば、ソニーに勤める友人は「業務をしているという信頼はオフィスにいる間は自然と担保されているが、オフィスから出た途端に魔法のように溶けるように感じる」とコメントしていましたし、またある知人は過去の日系通信大手企業での経験について「私たちはオフィスで時間を過ごすことで給料を受け取る仕組みになっているのではないか。これは終身雇用の望ましくない副作用かもしれない」と語っています。
しかし、リモートワーク・フレキシブルワークの成功例は数多く存在します。インタビューを通して、いくつかの事例から見えてきた成功法則を今回まとめてみました。それは、(1)組織に合ったツールを見つけて一人ひとりに周知する、(2)些細なことでもチームと共有する、(3)積極的に親睦を深めるためのコミュニケーションとチームビルディングの時間を作る、の3つのポイントにあります。
組織に合ったツールを見つけて一人ひとりに周知する
コミュニケーションツールやプロジェクト管理ツールの導入にあたっては、組織内の合意が必要不可欠です。メールはどんな時に使うべきか?緊急時にビジネスチャットは適しているか?応答時間はどのくらいの速さと頻度が望ましいか?意思決定と内部プロセスの記録はどこでどのように保持するか?各組織ごとの答えを明確に定義・共有し、スタッフ一人ひとりが正しく理解・実践できるように徹底しましょう。コミュニケーションの破綻は、チーム内での情報共有と理解度が低下した時に起こりがちです。それを防ぐには、同じコミュニケーションツールを、同じ方法で、同じ期待値を持って使用することが大切です。
次に、共有のナレッジベースを構築するツールを探ってみましょう。様々なやり方がありますが、簡単な方法の一つは「スクリーンキャスト」という、自身のコンピュータースクリーンをデジタル録画して共有できるツールです。インターネットの旅行ガイド TokyoCheapo.com 創業者のクリス・カークランド氏は次のように語っています。「スクリーンキャストは経験上、とても簡単で理解しやすいコミュニケーション方法の一つだと認識しています。遠隔地のスタッフのトレーニング、プレゼンの作成やタスクの説明などに適しています。録画は短く高品質であることを目指し、親しみやすいリラックスしたトーンで話しましょう。必要に応じて何回かやってみてください。回数を増やしていくとレコーディングも上達します。そして、みんながいつでも見つけられるように整理して、共通のフォルダーに保管しておきます」。こういった方法を実践することで、スタッフや新規採用者が使える知識のライブラリーを作り上げることができるだけでなく、やり方によっては場所が離れたチーム間の交流を促進し、社内カルチャーを築く機会にもなります。
ささいなことでもチームと共有する
同じ物理的空間にいれば周囲のチームメンバーの表情を伺うことができて、空気を読むことができます。話しかけたい相手が集中していて邪魔できない時や、逆に気軽に話しかけられるタイミングを図ることも簡単にできます。
しかしながら距離が離れてしまうと、ボディランゲージや些細な所作が伝わらないため、言葉に極度に頼ったコミュニケーションになってしまいます。教育スタートアップの ImaginEx 創業者の町田来稀氏は次のように述べています。「リモートワークに関する最大の課題は、情報共有を意図的かつ慎重にやらないといけない所にあります」。体調が優れていない時や、子供が休暇中でなかなか仕事に集中できない時、些細なことだと思っても遠隔地のチームと共有しましょう。対応可能な業務や、どのくらいの速さでレスポンスできるか、チームの期待値を調整しておけば無駄な衝突や勘違いを防ぐことができます。
日々のコミュニケーションに加えて、定期的な場を設けてチームの状況やコミュニケーションの問題について話し合うことは重要です。例えば、ソフトウェア開発のスクラム方式 では、振り返り・反省会(レトロスペクティブ)の機会を定期的に設けます。そこでは個々のプロジェクトの進捗は一旦棚に上げ、コミュニケーションの方法やプロセスに関して、何がうまくいったか、改善すべきかを議論します。このような意図的な振り返りを行うことは、特に遠隔地で働く組織のプロセス改善に欠かせないと言えます。
しかし、遠隔地のチームとリアルタイムのコミュニケーションを取り合うことはあまり期待しない方がベストです。「集中している相手に予定外の電話をかけたりSMSを送ったりすることは、悪影響を及ぼすリスクが大きいので常に注意を払ってください。まず非同期通信(例えばメール)を使って、他のツールより直接的なチャンネルは最後の手段として置いておきましょう。緊急でない限り相手からの返事を待つことに慣れてください。あなたが上司・マネージャーであれば特にそうです!」とカークランド氏は述べます。
積極的に親睦を深めるためのチームビルディングの時間を作る
人間は社交的な生き物です。どんなにリモートワークに慣れたとしても、顔を合わせて過ごす時間は多かれ少なかれ必要になってきます。遠隔地で働く最大の課題の一つはコミュニケーションが業務的になりがちなことです。本来であれば何気ない質問が「答えなくてはいけないタスク」になってしまい、「返答するという業務」を「してあげる」という気持ちにさせてしまいます。同じチームのはずなのに、気がついたら敵対的になってしまう、といったことも起きてしまいます。物理的に一緒に時間を過ごすことで信頼関係を再構築し、組織のビジョンと使命を再度確認し理解し合うことが重要です。
町田氏のチームは頻繁にオフサイト(社員研修・旅行)を企画することにしています。「職員のオフサイトは2−3ヶ月に一回あります。それに加えて、学校が休みに入る度に学生キャンプを企画しています。職員のためのものではありませんが、実際は一週間同じ部屋で寝泊まりするので、オフサイトと変わりないぐらい重要なチームビルディング活動になります」
どのくらい顔を合わせて過ごす機会が必要なのか、どのくらいの頻度がいいのか、時間をかけて組織に合った最適な答えを探ってみてください。週一回顔を合わせることでうまくいくチームもいれば、毎月で十分なチームもいます。さらにチームビルディング活動も合わせて行うことで、より強固な人間関係と組織カルチャーが育ちます。
結論
リモートワークを成功させるコツは、(1)組織に合ったツールを見つけて一人ひとりに周知する、(2)些細なことでも共有する、(3)積極的に親睦を深めるためのコミュニケーションとチームビルディングの時間を作る、の3つのポイントにまとめることができます。
今回の記事を読んで、リモートワークを導入することによって逆に仕事や悩みが増えるのではないかと不安を感じるかもしれません。確かにリモートワークを成功させるためにはチームの努力と訓練は欠かせません。
グローバル医薬品会社の研究者である石井惠玲氏は次のように語っています。「リモートワーク導入の最大のハードルは、リモートワークが本当は生産性が高いということを管理職の人間が認識していない所にあります。これは上司と部下の間の信頼関係の問題でもありますが、生産性を測る指標が今の時代に適していないことにも原因はあります。給与と生産性を相関させるのは非常に難しい一方、時間は能力に関係なく一律で測りやすい基準です。導入の足がかりに、オンラインにいることをわかり易く示したり、従業員をトラッキングするシステムを使うなど、ツールを利用することを検討しても良いかもしれません。一度リモートワークの本来の生産性の高さを実感すれば、実際の導入に必要なのはウェブ会議システムと安定したインターネット環境だけなのです。もちろん、それを利用して上司と部下が密接なコミュニケーションを取らねばなりません。コミュニケーションができなければ、現実的にリモートワークはできません」
Tonariではワークカルチャーやマネジメントのリモートワークへの関心・態度を直接的に変えることはできませんが、リモートチーム間の信頼の欠如や人間的な関わりの乏しさといった課題は、ツールを改善することで解決できると考えてます。現状のツールでも、努力と投資でワークさせる組織は存在しますが、我々はプロダクトデザインとテクノロジーが人間に寄り添い、簡単に、誰でもリモートワークとフレキシブルワークを導入できる未来を目指してます。
今後の投稿では、従来のツールの問題点や課題を分析して、Tonari流の遠隔コミュニケーションの考え方を紹介できればと思います。
成功しているチームご用達のツール・プロセスについてさらに詳しく調べたい方は、リモートコンサルティング企業TightOpsのウェブサイトをご参照ください。
お気に入りなツールのご紹介
プロジェクト管理・コラボレーション
tonariチームは最終的にプロジェクト管理とコラボレーションのワークスペースをNotionにしました。コンテンツの作成・整理・共有がとても簡単で直感的なのがポイントです。Notionは最近、リモートで作業するチームに向けた便利なヒント(英文のみ)を投稿しましたので、ぜひ読んでみてください。
Airtableは強力で多機能な、エクセルとデータベースのハイブリッドツールです。複数のチームと複数のプロジェクトを共同作業で管理することができたり、独自のCRMツールをボトムアップから作ることができるなど、マルチに活用することができます。
GSuiteはメール、カレンダー、そして外部の関係者への情報共有ツールとして最適です。
ビデオ会議
社内ではGoogle HangoutとZoomを使っています。HangoutはGSuiteに統合されており、同じブラウザで開けることがプラスに働きます。
スクリーンキャスト
カークランド氏はアップル社のQuickTimeを愛用してます。本人曰く「スクリーンキャストを録画して共有するのは本当に簡単です」とのこと。
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