お久しぶりです🌅
前回の「創業者からのご挨拶」を執筆してから約2年が経ちました。その間、tonariを導入する企業・機関が増え、活用範囲が広がったことを非常に喜ばしく思います。ゲーム会社の拠点間のコラボレーションをはじめ、海外展開を目指す日本の町工場とシンガポールのスタートアップの協働に活用されたり、伊豆大島の地域活性化のプロジェクトに採用されたりと、多様な場面でtonariが導入されるようになりました。またオフィスだけでなく、大学のキャンパス間で学生達の自主的な学習空間に設置するなど、用途も広がりました。ユーザーの皆さんからは、「離れた拠点でも隣の席にいるような感覚」「言葉で表現できないことを体現したり、抽象的な議論を展開できる」といった声をいただき、大変励みになっています。
そして、tonariは22名のチームへと成長しました。現在、7つの拠点(代々木、葉山、プラハ、スペインなど)に展開していますが、そのうちの4拠点はtonariでつながった「ひとつの空間」で、毎日一緒に働いています。
私たちの働き方は、コロナ禍を経て大きく変化しました。
多くの企業や学校がリモートワークやオンライン授業を取り入れ、今日では当たり前のようにビデオ会議システムを利用しています。これは一見すると「距離」に対する肯定的なマインドセットですが、完全な解決策ではありません。物理的な距離は、いまだに私たちの生活と仕事の障壁となっており、2017年の創業時に掲げた、「物理的な距離を超え、大切な人とのつながりをより身近に感じられる社会を実現する」というミッションの言葉の重みがさらに増したように感じています。
距離の呪縛
いつの時代も、人々は「距離」に悩まされてきました。
例えば、電車や車、飛行機などの便利な乗り物が誕生する前。新たな機会や夢を追うために故郷を離れるのは、それまでの生活や人とのつながりを完全に断つことを意味していたのだと思います。それに比較すると、今では「移動」に対しての心理的なハードルは大きく下がりました。飛行機や船などの交通機関を利用すれば、世界中どこへでも行くことができます。しかしその便益と引き換えに、自然環境への負荷や経済的コストは増大しています。また、高齢者や障害者のように移動が難しい人々は外出の機会が制限される一方で、富裕層はジェット機を利用して身軽に移動できるなど、年齢や健康状態、収入などがもたらす不平等も生じています。人々が分断され、孤立しているという根本的な問題は残されたまま、一部の恵まれた人々のモビリティだけが向上してしまったのです。
tonariのミッション
テクノロジーは人間の能力や可能性を広げることに大きく貢献してきましたが、「距離の呪縛」を乗り越えるうえでも大きな役割を担っています。
2018年、私たちは離れた場所にいる人と自然につながることができる ”tonari” を発案しました。2つの空間に等身大のスクリーンを設置し常時接続することで、両拠点にいる人たちは、まるで隣にいるかのように一緒に過ごすことができます。tonariが家庭や学校、職場にあれば、自分が居たい場所を選択しながらも、人とのつながりを維持できるのです。
私たちの使命の根底にあるのは、「人とのつながり」が私たちの生活を豊かにするという信念です。つながりは魔法のようなもので、友人とカフェに行ったりお酒を交わしたりすると、活力をもらったりインスピレーションが湧いたりしますよね。しかしテクノロジーを通して「会う」場合は、少し異なります。アプリやガジェットを使いこなすのは疲れますし、SNS病と言われるように取り残される不安(FOMO:fear of missing out)がつきまといます。
ビデオ会議でも同様で、スタンフォード大学の研究者は「Zoom疲れ」という言葉で表現しました。スマホやパソコンを使ったビデオ会議は便利ですが、小さな画面の枠の中に映る相手と話すスタイルはスカイプが登場した20年前とほとんど変わっていません。画面に映る自分が枠からはみ出ていないかを確認しながら、同じ場所にじっと座っているのは驚くほど疲れます。また、電波の乱れやタイムラグ、解像度の問題は、重要な会話をするには相応しくない環境です。
一方で、コプレゼンスのソシューションとして「メタバース」がありますが、私たちは今のところ仮想空間に踏み込むことは考えていません。VRゴーグルやアバターは完全ではないにしろ、もし映画『マトリックス』の世界を作りたいのなら、一度、自問するべきでしょう。(『マトリックス』の物語がディストピア社会であったことを思い出しませんか?)過去10年間のソーシャルメディアが世界のメンタルヘルスに与えた影響を考えると、この美しい現実世界から自分たちを引き離すテクノロジーや体験に過度な期待を寄せるべきでしょうか。
tonariがSF映画からヒントを得るとしたら、それは『スタートレック』の「ホロデッキ」(現実と変わらない架空の空間世界)や、『ハイペリオン』の「ファーキャスター」(瞬間的なテレポーテーション)だと思います。
画面の中にアバターとして存在させるように、人間をテクノロジーに合わせて縮小させるのではなく、テクノロジーを人間に合わせて活用し、人々の体験を広げていくことが、「真の人と人とのつながり」を築くための最良の方法であると信じています。
tonariのアプローチ
私たちの目標は、多様な「人」と「社会」をサポートする、人間中心に設計されたテクノロジーを創ることです。tonariは、次の4つの価値観を基本にして設計されました。
- 主張しないデザイン: tonariのテクノロジーやデバイスは極力目立たせず、空間に溶け込むように設計しました。部屋に入った瞬間から、tonariの向こう側にいる人と自然に交流できます。電源ボタンを押したり、何かの設定を調整する必要はありません。
- 自然さ: カメラをスクリーンの中央に配置したのは、目と目が合い、等身大で相手と向き合えるようにするためです。この「自然さ」が、まるで同じ部屋にいるかのような心地よい体験を創り出しています。
- 親密さと偶発性: 常時接続により、部屋と部屋は常に空気感を共有します。会話がなくてもつながりを感じられたり、偶発的なコミュニケーションが発生したりします。この親密さが、思いがけない出会いや出来事、アイデアを生み、私たちの毎日をより豊かにしてくれます。
- 品質と技術:テクノロジーがコミュニケーションの邪魔にならないようにするには、精密なエンジニアリング、密に連携したソフトウェアとハードウェア、そして細部への細心の注意が必要です。自然な会話は、技術的性能が人間の知覚に限りなく近づいて初めて実現できます。tonariは、ロスレス音声で3K/60FPSの動画を遅延100ミリ秒以下で表示可能で、他のビデオ会議システムよりも3~5倍速く、忠実度・再現度が高くなっています。
私たちの5年計画
地球上の様々な空間にtonariを設置することで、「距離」による問題を解決できると信じています。tonariがテレビのように普及したら、私たちの生活はどのように変化するでしょうか。どこに居ても、大切な人や同僚と人間的な「つながり」を保てるようになります。
この3年間、ユーザーの皆さんとtonariの改良に取り組んできたことで、私たちのやるべきことが、はっきりと見えてきました。
まず、2024年までに、時代の最先端をゆく企業や教育機関にtonariを導入します。さらに、アートや音楽スタジオなど、クリエイティブなチームが国境を越えてコラボレーションしたり、街のクリニックが医療研究センターの医師に気軽に相談できる環境づくりなど、tonariの用途を広げていきます。
3年以内には、企業や急成長するスタートアップのオフィスに、当たり前のようにtonariがある状態を目指します。従業員は、遠方にいる同僚ともtonari越しに毎日気軽に話せるようになります。
5年後、個人宅にtonariを設置して、移動の自由を享受しながら人とのつながりを育んだり、個人ビジネスにテクノロジーを活用する「tonariユーザー」が世界中に現れ始めるでしょう。子供たちがtonari越しに、おじいちゃんやおばあちゃんに「おはよう」と挨拶する朝のルーティンが誕生しているかもしれません。
しかしこれらを叶えるには、低価格化へのチャレンジと着実な技術向上が不可欠です。メーカーや代理店、インテリアデザイン会社などとのパートナーシップを深め、実現可能な道を見つけていく必要があります。
テクノロジー面では、tonari空間の再現性(リアリティ)を極限まで向上させなければいけません。人間の脳は偽物を識別する能力に優れているため、映像のタイムラグと解像度の改良に常に取り組んでいます。GPUやカメラセンサー、光学系、プロジェクターの品質は改善され続けており、tonariの精度向上にもつながっています。また、生成AIが多くの業界で有望視されていますが、私たちは、ノイズの多い環境でも音声の明瞭度を向上させることができる「リアルタイム・スピーチエンハンスメント(音声強調機能)」に期待しています。インターネット接続が世界中でより高速で安定的に使えるようになれば、海の向こうで暮らす誰かと話すことは、反対側の道にいる誰かに話しかけるくらい自然に感じるようになるかもしれません。
そして私たちは、必要のない機能や操作ボタンは増やしません。今のところ、tonariには学習曲線もギミック(仕掛け)もありません。ユーザーの皆さんには、テクノロジーを意識せずに、つながった空間でただ一緒にいることに没入して欲しいと思います。
2023年のtonari
2020年に発売したtonariは、特注品のように一つひとつを製造し組み立ててきました。毎晩遅くまで、工房にある工作機械を使い、旋盤でtonariのダイヤルを加工したり、基盤をはんだ付けたりして、リーンな開発スタイルで品質や安全性、そしてユーザー・エクスペリエンスを改良していきました。
昨年、ひそかに東京郊外に工場を開設しました。質素なスペースではありますが、私たちのDFM(製造性考慮設計)のアプローチに大きな変化をもたらしました。製品の改良を続けるため、多くの変更はお客様には見えない舞台裏で実施されました。精密製造、組み立て、モジュール化の改善、修復性、調達、物流の最適化など、すべてはコスト削減につながります。
そう、実は、新しい礎を構築していたのです。
2023年、私たちの旅は5年目に突入しました。次の5年に向けて、今まさに、このテクノロジーの潜在的なニーズを引き出すために大きなローンチ計画を立てています。これはtonariが世界中で使われるありきたりな技術となるための重要なマイルストーンですが、「仕事や教育の機会、そしてコミュニティの障壁となる物理的な距離による境界をなくす」という壮大なミッションを実行できることに、とてもワクワクしています。
実際、“tonari” は、私たちチームメンバーの生き方や働き方をサポートしてくれています。誰もが新たな機会や可能性と出会える世界の実現に向けて、情熱を持って取り組み続けます。
もし、あなたの目の前に ”tonari” があったら、どことつながりたいですか?
— tonari 代表
タージ キャンベル、川口 良
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